国総入企第25号
平成13年12月7日
建設業者団体の長 殿
国土交通省総合政策局長
下請契約における代金支払の適正化等について
標記については、従来から元請業者に対する指導方お願いしているところであるが、資金需要の増大が予想される冬期を控え、経営基盤の脆弱な中小企業が多数を占める下請業者に対する適正な代金支払等の確保について、その経営の安定・健全性を確保するため特段の配慮が必要である。
このため、国土交通省においては、平成3年2月5日に「建設産業における生産システム合理化指針」(以下「指針」という。)を策定し、適正な契約の締結及び代金支払の適正化等について指導を行ってきたところであり、平成12年5月26日には「建設産業構造改善推進3カ年計画」等を策定し、元請下請取引の適正化や経営改善の推進等の諸施策に取り組んできたところである。
しかしながら、今般実施した「下請代金支払状況等実態調査」及び先般実施した「専門工事業下請取引実態調査」によれば、徐々に改善しているものの依然として下請契約において、十分な見積協議に基づく書面による契約が行われておらず、契約前着工が行われるなど不適正な例が多く見られ、また、元請業者による、いわゆる「指値」による発注や建設廃棄物の処理費用の一方的な控除など、下請業者に対する過度のしわ寄せを生んでいると指摘されているところである。
また、前払金や労務費相当分などの必要な資金についても、下請業者に対して適正に支払われていない例が多く見られるなど、依然としてその改善が遅れている状況が見受けられ、最近そうした支払を巡る不適正な事例が増加しているとの指摘もある。
最近の厳しい建設産業の経営環境の中で、とりわけ元請下請取引の適正化が従来にも増して強く求められており、また、それが上位下請と下位下請の取引にも大きな影響を与えていることを踏まえ、指針を遵守するほか、特に下記事項に十分留意し、下請契約における請負代金の設定及び代金支払の適正化等元請下請取引の適正化に一層努められるよう、貴会傘下建設業者に対し、現場事務所に至るまで指導をさらに徹底されたい。
なお、平成12年8月31日、施工体制台帳に請負契約書の写しを添付しているかなど、現場施工体制等の確認を積極的に実施するよう、都道府県等に通知したところである。また、本年4月1日に施行された「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」においても、公共工事の受注者に対し、施工体制台帳の写しを発注者に提出することを義務付けることとされたところである。これらのことも踏まえ、これまで以上に下請契約の適正化に努められたい。
記
1.下請代金支払状況等実態調査によると、徐々に改善しているものの、依然として下請契約において書面による契約がなされていない例が多く見られることから、建設工事の開始に先立って、建設工事標準下請契約約款又はこれに準拠した内容を持つ契約書により、適正な工期及び工程の設定を含む契約を締結するとともに、下請代金の設定については、施工責任範囲、施工条件等を反映した合理的なものとし、明確な経費内訳による見積書の提出、それを踏まえた双方の協議等の適正な手順によることを徹底すること。特に、下請代金の見積りに当たっては、賃金等に加えて必要な諸経費を適正に考慮すること。今回、併せて、公共工事設計労務単価を見積り等の参考資料として取り扱う際の留意事項について通達したので、その内容についても、周知徹底を図ること。
また、工事内容に変更が生じ、工期又は請負代金を変更する必要があるときは、双方の協議等の適正な手順によりこれを変更すること。
なお、書面(建設業法第19条に基づく情報通信技術の利用による代替措置を含む)による契約が締結されていないことは、建設業法第19条に抵触するので、十分留意すること。
2.元請業者が前払金の支払を受けたにもかかわらず、当該前払金を他の建設工事の支払に流用しているなど、受注者に対して資材の購入、建設労働者の募集その他当該前払金に係る下請工事の着手に必要な費用を前払金として支払わない例が依然として見受けられるので、こうした行為は慎むこと。
特に、公共工事においては、発注者からの前金払は現金でなされるので、企業の規模にかかわらず、前金払制度の趣旨を踏まえ、下請業者に対して相応する額を速やかに現金で前金払するよう十分配慮すること。
また、前払金を受領した場合には、建設業法第24条の3第2項に基づき、下請業者に対し、必要な費用を前払金として支払うよう配慮すること。
さらに、公共工事にかかる前払金については、下請業者(保証事業会社と保証契約を締結した元請業者と下請契約を締結した下請業者に限る。以下この段落において同じ。)の請求により下請業者の口座へ振込が可能なので、この旨を下請業者に対して周知するとともに、保証事業会社と保証契約を締結した元請業者においては、この方式により下請業者に対して前金払を行うよう努めること。
なお、併せて、平成11年11月30日、保証事業会社に対し、前払金の下請業者に対する適正な支払いについての監査の強化等を行うよう通知し、平成12年度から、保証契約時に使途内訳明細書に支払先名、支払方法等を明記させ、前払金支払時においては、できる限り元請業者の口座から下請業者の口座に直接振込を行うことを基本とするが、それによらず立替払とする場合は工事件名、請求日を付記した請求書等によりこれらの確認を徹底することとしている。さらに、前払金を他の工事の支払いに流用するなど、前払金の払出しに係る不適正な取扱いがあった場合は、払い出した前払金を預託口座に払い戻させるなど厳正な措置を講じているところであり、これらの内容についても、周知徹底を図ること。
3.下請契約における代金の支払は、請求書提出締切日から支払日(手形の場合は手形振出日)までの期間をできる限り短くすること。なお、特定建設業者においては、建設工事の完成検査終了後、下請業者からの工事目的物の引渡しの申出の日から50日を経過する日以前で、かつできるだけ短い期間内において支払期日を定めることとしているが、50日というのはあくまで上限の日数であるので、できる限り短くするよう留意すること。また、注文者から出来高払いや竣工払いを受けていて、さらに下請業者から引渡しの申出を受けているときは、当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならないことにも留意すること。
4.下請契約における代金の支払は、できる限り現金払とし、現金払と手形払を併用する場合であっても、支払代金に占める現金の比率を高めるとともに、少なくとも労務費相当分については、現金払とすること。特に、最近の厳しい経営環境を踏まえ、公共工事の下請契約における代金の支払等については、下請業者の資金繰りや雇用確保等の観点から、迅速に対応すること。
また、公共工事における完成払等発注者から現金による支払があったときは、下請業者に対して相応する額を速やかに現金で支払うよう配慮すること。
5.手形期間は、120日以内でできる限り短い期間とするよう従来より通知しているところであるが、120日を越える期間を設定している例も多く見受けられるので、さらに徹底すること。
また、特定建設業者については、一般の金融機関による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付してはならないこと。
6.元請業者は、下請業者の倒産、資金繰りの悪化等により、下請契約における関係者に対し、工事の施工に係る請負代金、賃金の不払等、不測の損害を与えることのないよう十分配慮すること。
また、特定建設業者は、建設業法第41条第2項及び第3項の適用があることも踏まえ、下請契約の関係者保護に特に配慮すること。
7.公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律に基づき、公共工事の受注者による施工体制台帳の写しの発注者への提出が義務付けられたところであり、さらに、本年10月1日以降契約された公共工事に係る施工体制台帳については、二次以下の下請契約についても請負代金の額を明示した請負契約書を添付することとしたので、徹底を図ること。
8.資材業者、建設機械又は仮設機材の賃貸業者、警備業者、運送事業者等に対しても上記1から7までの事項に準じた配慮をすること。